先月、YOSHIKIの映画 ”UNDER THE SKY” を上映初日の初回に観ました。
YOSHIKIの英語は前回かなりの熱量で考察しましたので、今回はかねてから気になっていたL’Arc〜en〜Cielのボーカルで、今はYOSHIKI、Sugizo, Miyaviと共に組んでいるユニットThe Last Rockstarsのボーカルを務めるHyde(ハイド)の英語発音について考察したいと思います。

YOSHIKIの映画なら、Toshiの英語発音を考察するのでは?と思われるかもしれませんが、今回映画に彼は登場しません。X Japanの映画ではなくYOSHIKI個人の活動の映画なので。
オープニングに登場するのは、アニメ「進撃の巨人」の主題歌として大ヒットした曲で、YOSHIKI作詞作曲 HydeボーカルのRed Swanです。
私はL’Arc〜en〜Cielも好きなのでよく聞きますが、なんかHydeは英語の発音がいい気がすると、うっすら思っていました。Red Swanを聴いてそれが確信に変わり、今回、映画館で彼が歌う口元を具に見て確認したことで確証を得ました。これから挙げるいくつかのポイントができていると、日本人が歌っても英語の歌詞が非常に英語らしく聞こえるのだ、と。

はじめに言っておきますが、音楽とか芸能のプロをやっている人々の英語発音についてとやかく言えるような才能もないし批判をするつもりは毛頭ありません。音楽と英語発音の正しさは別物であり、それぞれの声質や言葉に対するこだわり、特徴など個性やこだわりの一部なので、「こうするべき」「こうでなくちゃ変」みたいなものを押し付けるのはナンセンスです。
しかしながら、色々な日本人の英語の歌詞部分を聞いた中で、Hydeの英語発音は格別だと私は感じました。
ネイティブスピーカーの人がどう感じるかは知らないし、素人だろうがプロだろうが、人の歌や、その一部としての英語の音の特徴をとやかく言うのはある種の越権行為ではないかとすら思います。ですからここに書くのは、あくまで英語発音矯正を生業にしている私個人の好みと、私の好みに基づく音に関する考察であり、「英語としての正しさ、流暢さ」といったことではないのでご了承ください。
なぜこんなに前置きをグダグダ書いてまでHydeの歌の英語発音を考察するかというと、彼の発音には、日本人のミュージシャンや洋楽を洋楽らしく歌いたい人が悩んでいることを解決するヒントがたくさんあると思ったからです。
そして、今回私が挙げる点は、色々見たけど日本人のミュージシャンや俳優の英語を考察している動画やブログの類には書いていないポイントが結構入っていますので、英語で歌を歌いたい人や、自分が好きなミュージシャンの英語を聴く時に参考になろうかと思います。
すでに本文が長いので結論から書きます。
Hydeが他の「英語が上手い」とされている日本人と違う点。
色々あるけど、キリがないので6つ挙げます。
- 半母音wの音
例:flowerのwや weのw willのwなどawayのw - Clear Lの音
例:flyのl, lieのl, flowersのlなど - Dark Lの音
例:angelのl, I’ll We’llのl - i:の音
例:seeのi:(eeの部分), breathingのi:(eaの部分)reachのi: (eaの部分)seizeのi:(eの部分) - aiの音
例:skyのai, nightのai, lifeのai, likeのai - 半母音jの音
例:you,yourのユの部分
日本語が達者なネイティブYoutuberも含め、ミュージシャンなどの英語を考察している人たちは、rやthの音がちゃんとできているかどうかや、音の連結(リンキング)、ラ行音化(フラッピング)などが上手にできていることを評価対象にしている場合が多いです。もちろんこれも大事で欠かせない要素なのですが、これらができていてもどうも英語らしさが不足している人もいて、一方でHydeのように英語らしさが多めの人もいる。
Hydeはrやth、リンキングやフラッピングは当然のようにできています。
その上で、他の多くの日本人ができていない音を完璧に自分のものにして操っているのです。
これらの音は、多くの日本人、そしてネイティブスピーカーも「日本人が苦手な音、できない音」として取り上げることがない脇役扱いの音ばかりです。(※取り上げている人もいるかも知れませんが、メジャーではなく少数派であると言う意味です)
・w (ものすごい唇を締めて発音する半母音)
・Clear L (上顎の土手みたいに平べったくて硬い所に強く押し当てた舌を離す時の反動でlaと発音する、日本語のラ行の音とは全く別もの)
・Dark L (語尾のL、「ラリルレロ」のようには絶対発音しない、舌先を上の前歯の裏に移動させながら「ュ」とか「ョ」とか「ォ」のような音を軽く出す、舌先は力を入れない、どこにもつけない)
・ i: (唇の周りの筋肉が緊張した音で、日本語のイとは全く別物の音)
・ai (aと口を縦に大きく開けて発音してからiを発音する二重母音:日本語の「アイ」とは全く別物)
・j (唇の両端を思い切り引っ張って緊張せた状態で/i:/の音を出しながらゆるめる、/i:/→/i/に移動する時に出る音)
これらの音が正しくできるだけで、歌における英語らしさは30%くらいアップすると言っても言い過ぎではありません。
特にHydeの英語発音ですごいと思ったのは、メロディや単語に合わせて、例えばDark Lの音の抜き加減を調整しているところです。文字で表すのは限界があるので、いずれ音声で解説をしようと思います。

Hydeの日本語の発音にもヒントがありました。彼の日本語の「らりるれろ」は英語のDark Lの音で発音されています。
ミュージシャンだから当たり前かも知れませんが、舌(筋肉と神経でできている)の筋肉が強いため、このDark Lの音をDark Lたらしめる特徴である舌の先端部分(先端といっても、5ミリ以上くらいの面積)を、上の前歯の裏の土手みたいに平べったくなっているところに押し付けてねっとりした重い音(Clear L)を出すことができるのでしょう。そして、その舌筋肉の力のおかげで、rの出だしがきちんと毎回rを出す時のスタートポジション(喉の奥の方に巻き込むような感じ)に素早く移動できて、そこからrの音を出すポイントである上顎のカーブができている部分に素早く移動できている。
だから「反り舌音」というrの音の特徴を毎回確実に決めつつ、時には必要に応じて少しその特徴を弱めて全体にいい具合に力みすぎていない英語になっているのではないか、と思いました。
英語の歌を一生懸命に歌ってる人って、rとかlとかr色のシュワ音(birdのirの部分)に力が入りすぎて妙な音になっていることが多いのですが、Hydeは一旦自分のものとして消化して調整できているので、力の抜け具合が素晴らしいと感じました。
これが、他の日本人ミュージシャンの英語発音にはあまり見られない特徴です。
あと、aiとかaのように、日本語の「あ」なんて及びもつかないほど口を縦に大きく開けて(だから喉が開き、カポンと空いたような、スコーンと抜けた音になる)発音する音がクリアに発音できていて、彼の音の伸びとマッチして英語らしい響きを加えていると感じました。
一方で、口をあまり開けずに発音するシュワの音(あいまい母音)の部分で結構口を開けて発音しているものも散見されました。だからと言って英語らしさが損なわれているかといったらそうではなく、音とか言葉の響きとかなんらかの理由でそうしているのだろうなあと思いました。シュワの音がちゃんとできているところも多いので、「英語として正しいか」よりも「歌として自分の出したい味を出せているか」を大事にして歌っているのではないでしょうか。
他にもまだまだHydeの英語について素晴らしいところはいっぱいあるのですが、だんだんマニアックすぎる領域になっていくのでこの辺にしておきます。また、「もう少しここをこうした方がいいのにな」と思う音もありますが、今回の考察目的は批判ではないので、いいところだけを取り上げました。
著作権法に触れるといけないので、Red Swanの歌詞の一部だけ載せておきます。歌詞は日本語と英語が混じっていて、YOSHIKIが作る日本語もまた美しいのでぜひ歌を聴いてみてください。
Like the scarlet night veiling the dark
You can hide your fear
Can lie, my dear
日本語
日本語
Like a Fallen Angel 日本語
日本語
Into the starry night 日本語
Fly into heaven
What’s the lie
What’s the truth
What to believe
In my life
See the flowers breathing in the rain
Try growing to the edge of light
It’s so far away to reach out to the sky
I’ll seize, I’ll seize the roses with my wings
We’ll fly
Like a Fallen Angel 日本語
以下省略
と言うわけで、rを巻き舌にするとかそういうことではなく、英語の歌詞が英語らしくなるようにするための私のおすすめするポイントは、w, Clear L, Dark L, i:, ai, j の音 です。
英語はなんのテーマも持たずに聞き流してもほとんど上達しません。
例えば洋楽を聞く時、日本人の英語の歌を聞く時に「こういう特徴があるのか、自分が認識できるのか」を意識して集中して聴いてみてください。
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