「英語の発音上達にフォニックス(phonics)がいいらしい」という話があります。この記事を見つけてくださったあなたは、フォニックスや英語発音について検索した方だと思います。フォニックスも、発音記号も大雑把に説明すると、「英語の発音をマスターするための方法」です。この2つは似ているようで、大きく違っており、向き不向きがあります。
少し長くなるので、最初に結論をお伝えします。

結論

大人は、フォニックスより発音記号で英語発音をマスターする方が効果的で応用範囲が広い

英語圏の子どもが読み書きを習うために開発された事で知られるフォニックス。
「子供向けだから簡単そう!」と思ってフォニックスで英語発音をマスターしようとする人がいます。

フォニックスで英語発音をマスター =「子供向けの方法」=「大人もやりやすくて最高!
こんなふうに考えていませんか?
実は、大人が英語発音やリスニングを上達させたい場合、発音記号を学んだほうが得られるものが多く、おすすめです。フォニックスにはフォニックスのメリットがありますが、大人に断然おすすめなのは、発音記号を使った発音矯正。

本記事では、英語の発音学習を深く理解するうえで欠かせない「フォニックス」と「発音記号(IPA)」それぞれのメリット・デメリットを学術的根拠を踏まえて説明します。さらに、英語の発音を身に付けたい大人が注意すべきポイントを発音矯正専門家の経験を元に解説します。

英語を学ぶ中で「英語発音矯正をしたい」「うまく英語の発音ができない」「ネイティブの英会話が聞き取れない」という悩みをお持ちの方、「英語のリスニング上達」を目指してフォニックスや発音記号の学習に興味を持っている方に役立つ内容なので、ぜひ最後まで読んでみてください。

最初に、フォニックス、発音記号それぞれの特徴を紹介します。

1. フォニックス(Phonics)とは?

1-1. フォニックスの概要

フォニックスは、英語の文字(スペル:つづり)音(発音)にどう対応しているのかをルール化し、学習者が「知らない単語を見てもある程度、動やって発音するのか予測できる」ように指導する方法です。英語圏の子どもにとって読み書きの入門としてよく使われています。また、「日本人のように英語を母国語としない国の英語学習者にも役に立つ」、とされています。フォニックスには大きく分けてアナリティック・フォニックスとシンセティック・フォニックスの2種類があり、教え方や内容が違います。

メリット

  1. 文字と音の関連性が学びやすい
    アルファベットと音の対応(例: “c” は /k/ または /s/ になる、など)がある程度体系化されているため、単語の発音・スペル(つづり)を推測しやすくなります。
  2. 初心者でも導入しやすい
    教材やメソッドが多数あるので、始めやすい環境が整っています。特に、子供向けの教材やメソッドが豊富です。
  3. リーディング・リスニングの基礎力強化
    フォニックスを一度マスターしておくと、長文を読む際や知らない単語の大まかな発音を把握するのに役立ちます。

デメリット

  1. 英語特有の例外が多い
    例外的なつづりや不規則動詞、外来語など、フォニックスの基本ルールだけでは対応しきれない単語もたくさんあります。
  2. 高度な発音矯正には不十分
    アクセントやイントネーションの微妙な違い、地域差(アメリカ英語・イギリス英語ほか)を細かく修正するには、もっと細かい音声学的知識が求められます。
  3. 上級になるほど他の要素が重要に
    語源や※コロケーション、リズム(プロソディー)などを総合的に学ぶ必要が出てくるため、フォニックスだけではカバーできない部分も多いです。

    ※コロケーション:英語のネイティブスピーカーたちが普段用いる英語表現の中で頻繁に使用される2つかそれ以上の単語同士の組み合わせ。チャンクとも言います。

2. 発音記号(IPA)とは?

2-1. IPAの概要

IPA(International Phonetic Alphabet)は、世界各地の言語に含まれる音を体系的に記号で表したものです。辞書に載っている発音記号としてもよく知られており、英語発音の学習にも広く活用されています。漢字の読み仮名みたいなものだと思うと、理解しやすいでしょう。

メリット

  1. 正確な音を把握できる
    母音・子音を1音ずつ区別し、舌や唇の位置、声帯振動の有無などを理解しやすい。
    英語は、声帯が震える子音(有声音の子音)の前にくる母音は、無声音の子音の前の母音より長めに発音します。

    これは英語発音の特徴の一つで、他にも色々なルールがあります。ルールを無視すると通じない原因や、聞き取れない原因になります。フォニックスではこういった細かいルールを表現することができません。

    例:got のoより godのoの方が長めに発音される。日本人はこの長さの差を知らない人が多く、god(神)のつもりがgot(getの過去形)に聞こえてしまうような発音している人がとても多いのです。
  2. 例外や訛りにも対応しやすい
    スペル(つづり)とは切り離して音そのものをとらえるので、アメリカ英語・イギリス英語などの色々なバリエーションにも応用できます。
  3. スピーキング・リスニング力の向上に役立つ
    自分の口の動きを調整でき、相手の発音を聞き分ける際にも音素レベルで理解できるようになります。発音は個人個人で多少の差があります。発音記号を元に英語の音をマスターすると、個別の違いに合わせて音を理解しやすくなります。

このように、発音記号の読み方を正しくマスターするのが、発音矯正です。英語は、スペルと音(発音)が一致しないので、漢字の読み仮名を習って、その読み仮名であるひらがなの正しい発音を習うようなものだと思ってください。

布団(ふとん)を「ふだん」と読んだり、「フットーヌ」と発音したら、親切な人なら聞き取ってくれるかもしれませんが、通じにくいし、聞き取りにくいですよね?これは大袈裟な例ですが、自己流で発音すると、例えばこんな風に「似て非なる音」で発音して、間違いに気づかないか、気づいても何がどうして間違っていて、どのように直したらいいかわからない人がほとんどなのです。発音記号と、発音記号の発音方法をマスターすれば、どんな英語でも正しく発音できるようになります。

発音は音節の数とアクセントが重要

良いことばかり書くと信頼されないので、デメリットも書いておきます。

デメリット

  1. 初心者には難易度が高い
     英語は日本語よりも音がたくさんあるので、発音記号や発音ルールを一度にすべて習得しようとすると混乱したり、投げ出したくなるかもしれません。
  2. 専門的な指導が必要
    記号の読み方を知るだけでなく、知って、理解して発音した音が合っているかどうかを自力で確認するのが難しいです。
  3. 表記がフォニックスに比べると多い
    母音だけでも /ɪ/ 、 /iː/、/ʌ/、 /ɑ/ など多数あり、慣れるまでに時間がかかる場合があります。
    「個別の音の違いに対応できる=応用が効く」 という性質から考えると、単純化したフォニックスに比べて種類が多く、少し複雑になるのは仕方がないこととはいえ、嫌な人にとっては嫌かもしれません。

フォニックスの問題点は?:特に大人の場合

記事の前半に書いたことと重複しますが、「大人がやるのに向いているか」という視点で再度問題点をまとめます。フォニックス(Phonics)は、英語の文字と音の関係性を学ぶ効果的な方法として広く知られていますが、以下のような欠点や限界が学術的に指摘されています。

  1. 発音ルールの例外が多い
    英語にはフォニックスのルールに当てはまらない単語が多く存在し、これがフォニックスの限界とされています。大人の英語学習者で、初級者ならまだしも、中級、上級を目指す場合、フォニックスだけだと対応できないことが増えてきます。
  2. 意味理解には直接つながらない
    フォニックスは文字と音の対応を学ぶものであり、語彙の意味や文脈の理解を直接助けてくれるものではありません。単語や文章の音だけでなく意味やスペルを知る必要がある大人の英語学習者には、フォニックスをやるよりもこの制約がない発音記号から入る方が効果的で効率が良いです。
  3. 学習者の年齢やレベルによっては不向き
    フォニックスは幼児や小学生など、英語学習の初期段階において特に効果的とされていますが、大人の学習者や既にある程度の読み書き能力を持つ学習者にとっては、その効果が限定的である場合があります。1、2で説明したことと重複しますが、改めてまとめると「特に大人や中、上級者をめざず学習者には不向き」です。
  4. 綴りや文法力が自然には身につかない
    フォニックスは発音指導法であり、綴り(スペリング)や文法の理解に直結するものではありません。

これらの欠点を踏まえると、フォニックスはまだ読み書きができない(する必要がない)年齢の子供や初級者が英語の発音の基礎を身につける上では手軽な方法ですが、語彙や読解、文法など、他の技能との関連性も考えると、最初から発音記号で英語の音をマスターした方が良いでしょう。

子供が自然に言葉を覚えるときには、「聞く→話す→読む→書く」という順番で身につけることがわかっています。まだ英語の単語を読めないような年齢の子供が音から言葉を取得していくのに、発音記号よりフォニックスの方が入りやすいかもしれません。しかし、ここまで読んでいただいておわかりのように、読み書きから言葉を増強していく年齢の子供や大人は、フォニックスよりカバーできる範囲が広く、応用が効く発音記号で英語をマスターした方が効果的です。

参考情報:子供と大人の言語習得の違いに興味がある方は、こちらもお読みください。

ここまで読んでいただいただけでも十分ですが、ここから先もお読みいただくと、根拠となる説明でさらに納得していただけるかと思います。しっかり理解して、英語発音上達の方法を自分で選びたい方はぜひここから先も読んでみてください。

3. 英語発音は子供の方が大人より有利なのか?

3-1. 乳児は多様な音声を区別できる

実際の研究(Eimas et al., 1971、Werker & Tees, 1984 など)によれば、新生児は世界のさまざまな言語の音の多くを最初は区別できる能力を持っており、母語にない音も聞き分けられるといわれています。この初期の音声認識能力が、子供の言語習得における大きなメリットです。

3-2. 言語間の音声はさらに多様

言語によっては数十もの子音・母音が区別され、声調(トーン)や複雑な摩擦音なども含まれます。人間は成長過程で母語特有の音区別に慣れ親しむ一方、必要に応じて他言語の音を後から習得できる柔軟性も持っています。ただし、年齢が上がるにつれて、この柔軟性は徐々に低下していきます。ただし、低下はするものの大人になってからは無理、というわけではありません。また、「マネをして覚えられる=楽に覚えられる」というわけでもないし、逆に「理解して勉強しないとできるようにならない=苦行」というわけでもない点も併せて強調しておきます。

歳をとってから、努力して今までできなかったことができるようになる経験には、子供が楽をして何かを身につけるのとはまた違う大きな喜びがあるのです。私は普段大人の生徒さんに発音矯正をしていて、皆さんの嬉しそうな顔や喜びの声を聞かせていただいている経験から、ここを声を大にして伝えたいです!

3-3. 子供が言語習得で有利だと言われる理由

有名な言語学者、ノーム・チョムスキーの普遍文法(UG)などの理論では、「人間の脳には生得的に言語習得を助ける仕組みがある」と考えられています。また、臨界期(クリティカル・ピリオド)の研究からも、幼児期に開始すれば母語だけでなく第二言語も高い習熟度に達しやすいと示唆されています。特に発音面では、子供の方が大人よりも新しい音を自然に習得しやすく、ネイティブに近い発音を身につける可能性が高いとされています。こうした生得的な言語習得メカニズムや脳の可塑性、そして周囲からの豊富なインプットが、子供がどんな言語でも習得可能とされる大きな根拠であり、英語発音習得においても子供が大人より有利である理由です。

4. まとめと結論

子供の頃にやると、「音を自然に身につける」のは有利。でも、続けないと忘れてしまうので、子供の英語⇨大人の英語への橋渡しとその後のメンテナンスが最も大事!

大人でも子供でも、最初から発音記号を習い、発音記号の発音方法をマスターすれば万能、ということがおわかりいただけたでしょうか。フォニックスがダメとか役に立たないと言いたいわけではなく、年齢や目的に合った方法を正しく選ぶためにできるだけ学術的な根拠に基づいた説明をしてみました。自分の頭で考えて、自分、あるいはお子さんに合う方法を選ぶための参考になれば幸いです。